フィリピン・ミニ知識: 選挙結果と今後の見通し

副会頭・専務理事 藤井 伸夫

 5月13日に投票の行われた今回選挙は、大統領任期の“折り返し点”にも当たる為、政権に対する評価という意味もあったが、過去に類例の無いドゥテルテ大統領・政権に対する高い支持率を見ると、焦点となった上院選は「政権側の選んだ候補者の信任投票」と言えた。
 また、選挙に関連する暴力事件も13年の142件・94人死亡、16年の192件・106人死亡と比較して半分程度と大幅に下がっており、総じて平和な結果だった。長く比に駐在している友人とは、「どうも盛り上がりに欠けた大人しい選挙」との意見で一致し、政権側が圧倒的に優勢な為に緊張感を欠いたとの印象が残った。また、暴力事件が減ったことで「票の売買」がクローズアップされたが、大統領は「交通費として受け取っておけば良く、実際に依頼された候補者に投票するかどうかは別問題」と語っている。お堅い選挙関係者や開票速報を担当する宗教関係者は「それは罪!」と戒めでいるが、買収いつもの事で止む筈も無く相場は一票が500-1000ペソ!

1)上院選
 12人を選ぶ上院選では、大統領の選んだ候補が9人当選するなど政権側の圧勝に終わり、野党の中心LP(自由党)から再選を目指したアキノ上院議員や元党首で16年大統領選ではドゥテルテ大統領に敗れたロハス前上院議員も落選し、“シャット・アウト”(完封)負けとなった。
 22日の中央選管の最終集計公表後の集合写真で、12人中10人が現政権のトレード・ポーズとなった「コブシを突き出す」スタイルで決め、政権側の誇らしげな姿が印象的だった。ちなみにポーズを取らなかったのは、いずれも再選出馬組の女性でポー上院議員(2位)とビナイ上院議員(12位)だった。

 当選者の内訳は、再が5人・元が3人・新が4人だった。4人の新人は、大統領が強力にサポートした側近の前大統領特別補佐官のゴ氏、PNP長官から矯正機構長官に転じたデラロサ氏、アキノ政権でMMDA長官を務め大統領顧問(政治担当)だったトレンティーノ氏の政権与党のPDP-ラバンから出馬した3人と、マルコス元大統領の長女でマルコス一族の鉄壁の地盤である北イロコス州で知事・下院議員を歴任したアイミー・マルコス女史だった。政治家としての経歴の無いゴ氏とデラロサ氏が、大統領の“ラバー・スタンプ”(ゴム印)として「言われた通りに動く」のかに注目しておきたい。
 また、ある種の世代・文化の交代が行なわれた事も眼についた。“政治と芸能”を結びつけ圧倒的な人気を誇ったエストラーダ一族では、正妻の子であるエストラーダ前上院議員(通称ジンゴイ)が15位と敗退し、愛人の子であるエヘルシト上院議員(通称JV)が13位と再選を果たせなかった。また、地方選では領袖のエストラーダがマニラ市長選で再選を阻まれた他、首都圏サンファン市長選・ラグナ州知事選・マニラ市議会議員選のそれぞれで一族の者が全て敗退した。
ジンゴイは、アキノ政権時に“ポーク・バレル”関連の汚職で逮捕された現職三上院議員の一人であり、その事も影響したと思われる。残る二人の内レビリア氏だけが当選したが、10年の政党支持無しでの圧倒的なトップ当選からは遠い10位だった。もう一人は、収監中に高齢と病気を理由に保釈を勝ち取ったエンリレ氏で、言わずと知れたマルコス独裁政権を倒したピープルパワー革命の立役者で、こちらは30位前後と遠く圏外だった。

2)今後の見通し
 これでドゥテルテ政権の後半を支える上院議員24人が揃った事になるが、元々選挙前でも優勢だった政権側が、一気呵成に政策の中心となる各種の法案を成立させるのではとの意見が広がっている。例を挙げれば、法人税に関するTRAIN-2=税制改革第2弾や死刑制度復活法案に加えて、極め付けは連邦制移行を目指す憲法改正法案だが、そうは簡単にいくとは思えない。

 そのキーとなるのは上院制度で、任期が6年で再選可というシステムである。例えば今回当選した12人は、大統領任期の到来する22年を超えて25年迄任期があり、更に新人4人については25年に再選されれば31年まで上院議員を務めることが出来る。このように「長丁場」が本質である上院議員は、一時の判断で動き難くなるのは必定なので当初の勢いはいずれ沈静化すると思われる。特に、大統領の任期切れとなる22年近くになればその傾向は強まるので、ドラスティックな改革はここ一年が勝負になる。

3)その他
 印象に残ったのは、マカティ市の選挙ポストを自在に操ってきた前副大統領のビナイ氏が下院選に出馬して敗退した事で、時代の移り変わりを実感させられた。また、ドゥテルテ政権で閣僚相を務めたエバスコ氏は、閣僚を辞任して故郷のボホール州知事選に出馬したが大統領の応援にも係わらず、GMA側近で農相経験者で与党PDP-ラバンから出馬したヤップ下院議員に敗れた。
 更に、19年予算成立に関して“揉め事”を作った張本人であるアンダヤ下院議員は南カマリネス州知事選に出馬したが、同じ有力一族のビラフェルテ氏に敗れた。

 上院選の確定得票は、トップのビリアール上院議員が 25.2百万票、12位で当選したビナイ上院議員が 14.5百万票だった。

以 上