【会計Q&A:為替リスクの管理(第3回:評価差損益/為替リスク対策)】
|
Q.昨年の急激なペソ高により、私の会社も事業計画にくるいが出てきている上に、決算期が終わって財務諸表で為替差損益がどれだけ出るのが、とても不安です。為替変動の影響はどんなふうに管理したらよいのでしょうか? |
A.さて、為替リスク管理についての最終回になりました。この回では、為替評価差損益についてのご説明と、各種の為替リスクに対する対策についてまとめてみたいと思います。
1.
為替評価差損益とは
為替評価差損益とは、外貨建ての債権(資産)や債務を期末のレートで機能通貨で評価した場合、もともとの取引を行った時に比べて差額が出た場合、これを評価差損益として認識するものです。一例として、外貨建ての借入金について具体的にみてみましょう。
まず、機能通貨がペソでドル建ての外貨借入をしている場合ですが、借入日のレートが1ドル50ペソ、期末のレートが1ドル40ペソの時、USDで10,000ドル借入があったばあいに、期末で記帳される評価損益はどうなるでしょうか?答えは、USD10,000×(P50−P40)で、P100,000の利益があがります。これは、借入を行った時には、借入日のレート(P50)で借入金がP500,000記帳されることに対して、期末にはこの借入金がペソで評価してみると、USD10,000×P40=P400,000となって、P100,000が減っているので、その分債務の減少ということから評価益をP100,000記帳するわけです。この為替評価差損益の発生は、ほんの期末の一時点の為替評価レートを決定する時に金額が決まりますので、とても予測がしづらいものです。特に昨今の円高のように急にレートが変わるような局面ですと、これまでは為替差損益の発生もなくうまくいっていたと思っていても、決算書を見てびっくりというようなことも起こってきます。円の金利が他の通貨(ドルやペソ)に比べて安いことから、円建ての借入を行われている企業様も多いかと思いますが、特に借入金に関しての為替評価差損益の発生は、前述のとおり急に発生することがあるので、注意が必要となってきます。
この為替評価差損益のリスクの分析には、期末の財務諸表を利用します。具体的には、期末の財務諸表の総資産のうち、何%がドルで、何%が円かなどを具体的な%表示をして、そこから資産と負債の差額で各通貨の構成比率を求めます。たとえば、総資産(=負債+資本)の合計がP100,000で、その内ドル建の売掛債権がP40,000、円建て預金がP10,000、円建ての借入がP30,000あった場合(ペソ表示の財務諸表では、)ドル建てのリスクは総資産の40%で、P40,000相当のUSD、円建てのリスクは総資産の20%(P30,000-P10,000分)で、P20,000という様になります。
2.
対策
これまで、発生のタイプとして、@事業為替リスク、A実現為替リスク、B評価為替リスクについて説明させて頂きました。ここで、為替リスクの対策としてとられている手法と各リスクの関係を述べさせていただきましょう。
1)通貨マッチング
まず、最も基本的な為替リスクの回避方法は、資産と負債、収入と支出における通貨のバランスを出来る限りとることです。これまで為替リスクの分析の仕方をご説明させて頂いてきましたが、単純化すると為替実現差損益の場合には収入と支出の差額が、また為替評価差損益の場合は、資産と負債の差額から為替差損益は発生してきます。従って、為替差損益のリスクを出来る限り少なくするために、こうした入り払い、資産/負債の差額を少なくするために、取引通貨を出来る限りマッチングするように調整することがリスク回避に役立ちます。グループ会社とのお取引が多い場合には、そうしたグループ会社との取引内容(販売や購入、貸し借りの通貨)を見直すことによって、リスクを減少させることも可能です。この通貨マッチングの方法は、すべての為替リスクに有効であり、為替リスク対策の基本です。
2)為替予約
銀行を通じて為替予約を結ぶ方法も、よくとられる手段です。また、スワップ等を利用した長期の為替予約も利用される方法です。これは、上記の通貨マッチングが取引条件もあってなかなか変更できない場合、銀行との間の為替予約を通じて、マッチングを図る方法といえましょう。ただ、注意が必要なのは基本的には元の取引が継続することが前提となっていますので、急な取引条件の変更やキャンセル等が出ますと、取引で使えない為替予約のみが残る可能性もあり、その場合には、為替予約自体が為替評価の対象となって、損益に影響を与えるケースもあります。従って、為替予約取引を利用する場合には、出来る限り安定している取引を対象にして行うことをお勧めさせて頂きます。その意味で事業計画上の為替リスクに対して利用することは、これはあくまで計画であって、取引が確定しているケースは少ないので、やや危険を伴うともいえましょう。実際に取引の確定している実現為替差損益や評価為替差損益のリスク対策には有効な手段といえます。
3)サイト(売掛金・買掛金回収期間)の短縮
為替実現差損益の際にご説明させて頂きましたが、売掛金・買掛金の為替実現差損益発生の対策として有効と考えられますし、また、サイトの短縮を通じて期末の売掛金・買掛金残高を減少させることが可能ですので、評価差損益発生の対策としても間接的に有効と考えられます。ただし、事業計画上の為替リスクに対して、効力はありません。
4)負債の削減
比較的多くみられるケースとして、親会社やグループ会社よりの借入金で調達を行っており、その借入金から発生する評価為替が、期末の損益見込みを狂わせてしまうということもあります。グループ会社からの借入金であれば、これを資本に転換(債務資本化)ということにより、為替リスクを回避することも可能です。資本金は為替評価の対象外ですので、こういった形で為替リスクを持っていた負債を減少させて、為替リスク量を少なくすることも可能です。
5)機能通貨の見直し
また、決定した機能通貨の見直しも選択の手段としてあります。特に通貨マッチングを行っていくと、当初の機能通貨はドルであったにも関わらず、マッチング後は円になったというケースもあるかも知れません。そうした場合には機能通貨の変更が可能であり、その場合には導入時に比べて簡単な作業(単純には切り替え時点のレートを適用して財務諸表を作成するのみで、導入時のような過去の取引にさかのぼって計算する必要はありません)ですみますので、そうした方法も考慮の一つといえましょう。
これまで、3回にわたって為替リスクについて解説させて頂きました。事業環境が変化して、色々な通貨での取引が増える一方、為替の変動は一瞬で利益を吹き飛ばしてしまうインパクトをもつ場合もあります。まずは貴社の財務諸表で取引されている通貨で一度見直されて、為替リスクの存在を認識されるだけでも、一歩前進して対策が可能となるのではないでしょうか。